この記事を書いた人

産婦人科専門医、マンモグラフィ読影認定医の資格を持ち、医師として約10年医療現場に立つ。
特に婦人科の分野に力を入れている。
2026年4月に横浜市金沢八景でクリニックを開業予定。
目次
卵巣腫瘍とは
卵巣とは子宮の左右各1個ずつある臓器で、この卵巣にできたものを卵巣腫瘍(らんそうしゅよう)といいます。
卵巣腫瘍とは卵巣にできる“しこり”の総称で、良性(卵巣のう腫)のものから悪性(卵巣がん)まで幅広く存在します。
女性の体内でホルモン分泌や排卵を担う卵巣は、通常は小さな臓器ですが、腫瘍ができることで大きく膨らみ、症状が出たり手術が必要になることがあります。
特に初期は無症状のことが多く、定期検診や健康診断で偶然見つかるケースも少なくありません。
卵巣腫瘍の原因
卵巣腫瘍にはさまざまな種類がありますが、原因はまだはっきりとは解明されていません。
生まれつきの卵巣の組織の変化や、ホルモンの影響、慢性的な炎症などが関与していると考えられています。
卵巣腫瘍の良性と悪性の判断
卵巣腫瘍が良性か悪性かを見極めるには、画像検査(経腟超音波・MRI・CTなど)や血液検査(腫瘍マーカー)を組み合わせて総合的に判断します。
良性腫瘍は表面が滑らかで、内容物が液体であることが多く、ゆっくりと大きくなります。
一方、悪性腫瘍は境界が不明瞭で内部が複雑、固まりが多いなどの特徴があります。
ただし、見た目だけでの判断は難しく、必要に応じて手術で摘出し、病理検査によって確定診断を行います。
卵巣腫瘍の種類
卵巣腫瘍をその発生母地(どんな種類の細胞から腫瘍が発生したか)からみると大きく3つに分けられ、それぞれの腫瘍に良性、境界悪性、悪性の腫瘍があります。
約90%は良性ですが、腹痛の原因となることもあります。
また、良性の卵巣腫瘍は病理学的に細かく分類されていますが、よく見られるのは次の4つです。
漿液性嚢胞腺腫
腫瘍の中にさらさらとした液体がたまり、水風船の様に単房性で薄い壁に包まれています。
機能性嚢胞(一時的な卵巣腫大)と判断が難しいこともありますが、漿液性嚢胞に関しては自然に縮小することはありません。
粘液性嚢胞腺腫
腫瘍の中にねばねばとした液体がたまり、多房性のことが多いです。
成熟奇形腫
卵巣腫瘍全体の20%を占めると言われています。
腫瘍の内部に皮膚組織、毛髪、脂肪、軟骨、骨などの成分を含みます。
皮様嚢腫と呼ばれることもあり、比較的若い女性に多いです。
子宮内膜症性嚢胞
嚢胞内部にチョコレート色の古い血液が溜まることからチョコレート嚢腫と呼ばれます。
40~50歳代に見られる卵巣嚢腫の中で最も多いです。
多くは良性ですが、まれに癌化することもあるため注意が必要です。
卵巣腫瘍の症状
卵巣腫瘍の症状は一般的に無症状です。
腫瘍が大きくなると下腹部の張り感や違和感、頻尿、便秘などの症状が出てくることがありますが、多くは無症状のため、健診でたまたま発見されることも多く、サイレントキラーとも呼ばれています。
症状が出てきてから受診された方は、かなり大きな卵巣腫瘍で見つかる方も少なくありません。
また、まれに、腫瘍がねじれたり(茎捻転(けいねんてん))、破裂することで急激な腹痛を起こすこともあり、この場合は緊急手術が必要になります。
そのため、早期発見には年1回の超音波検査を受けていただくことをお勧めします。
子宮頸がん検診を受ける際に、内診だけではわからないこともあるので、早期発見のためには超音波検査もぜひ一緒に受けていただきたいです。
卵巣腫瘍の手術について
手術が必要になるのは、腫瘍が大きくなっている場合や、悪性が疑われる場合、茎捻転や破裂が起きた場合です。
良性と考えられる腫瘍でも、5cm以上の大きさになると、茎捻転のリスクが高まり、将来の妊娠への影響も考慮して切除が検討されます。
手術方法には腹腔鏡手術と開腹手術がありますが、最近は体への負担が少ない腹腔鏡手術が多く用いられています。
腫瘍の種類や大きさ、年齢、妊娠の希望の有無によって、卵巣を残すかどうかも含めた治療方針を決定します。
手術が必要と判断した場合は、近隣の総合病院へ速やかに紹介させていただきいます。
卵巣腫瘍は早期発見がカギ
卵巣腫瘍は早期には自覚症状がないことが多いため、婦人科での定期的な検診が重要です。
経腟超音波検査で比較的簡単に腫瘍を見つけることができるため、月経異常や下腹部の違和感がある方、また自覚症状がなくてもご心配な方は、一度ご相談ください。
当院では、画像検査と診察を通じて、患者さん一人ひとりに合った丁寧な対応を心がけています。